想いのままに。

J窓系列夢小説

truth~ショウタの場合~

「俺、次の休み予定あるから。」

 

この言葉を言うのは何回目だろう。

 

「そっか。じゃあ、また会えないね。」

 

もう2ヵ月は会っていない。

 

「そうだっけ?」

 

とぼけてみる。

 

「いいよ、別に。じゃ、また電話するね。」

 

素っ気ない返事。でもこれで良い。

俺は忙しい。彼女も忙しい。

お互いに束縛はしない事を条件に付き合っている。

 

だけど、本当は違う。

俺は彼女の出方を待っている。

恋愛に対して興味がないふりをしているだけで、本当は彼女の事がいつも気になっている。

でもそんな事は絶対に言わない。 言えない。

本当の自分は見せたくない。

 

恋愛なんてこんなもの。気楽な方がいいに決まってる。

 

 

 

「明日、健康診断なんだよね。」

 

電話の向こうでぽつりと呟く彼女。

 

「あぁ、前に言ってたやつ?」

 

数日ぶりの電話なのに、彼女の様子が違う事が気になる。

 

「何?病院怖い感じ?」

 

明るく聞いてみる。

 

「だって、何か病気が見つかったら嫌じゃない?」

 

そんな事言うなよ。怖いな。

 

「見つけるために行くんだろ?ま、見つからない方がいいけどな。」

 

「そうだけど…。ショウタ、ごめんもう寝るね。」

 

時計は深夜の時刻を表示している。

 

「おう。おやすみ。」

 

「おやすみ。」

 

心なしか、彼女の声に元気がない。

いつもは俺からすぐに電話を切るけど、今日は切れずに声を掛ける。

 

「ん?ごめん、聞こえなかった、何?」

 

「明日病院終わったら連絡しろよ?」

 

「ん?うん、分かった。」

 

彼女の返事を聞いてから、いつも通り電話を切る。

 

…変に思われたかな?

ただの健康診断かもしれないけど、やっぱり病院って聞いたら心配になるな。

 

 

 

来てしまった。

彼女の家の前。

 

病院は午前中だからもうすぐ終わるだろう。まさか、仕事に行ったりしないよな?

 

じっと待ってるのも怪しいから、ちょっとこの辺歩くか。

腹も減ったし、飯食ってたら電話あるかもしれないし。

 

 

 

てかさ、夜なんだけど。

夕方まで待って帰宅しないから家に帰って来たけど、まだかかってこない。

…まさか、何か病気が見つかったとか!?

えっ…

どうしよう。

いや、これは、ちゃんと確認しないと。

 慌てて、でも冷静に電話をかける。

 

「…もしもし?」

 

寝ぼけた声。

 

「もしもし、じゃねーよ。お前、電話しろって言ったよな?」

 

何寝てんだよ。

 

「何?どうしたの?」

 

「どうしたの?とか…。信じらんねー。」

 

思わず溜息が出る。

 

「病院、どうだったんだよ。」

 

「あ…」

 

これ、忘れてたってリアクションだよな。

 

「ごめん!何ともなかったよ!携帯を玄関に忘れたまま病院と仕事に行っちゃって。」

 

何だよ…俺はその程度かよ…

 

「…そっか。何ともないなら良かった。じゃあ、おやすみ。」

 

「ご、ごめんね。連絡しなくて。」

 

電話を切る。

何ともなかった事に安心しつつ、俺の存在って忘れられる程度でしかなかった事にショックを受けた。

 

俺はこんなにいつも気になってるのにな。

この前の休みだって、何してるのか気になって職場の近くまで行ったし。

急に休みになっても連絡しづらくて、出かける後を追ってみたり。

そろそろ会いたいと思っても、どう切り出せばいいのか分からない。

俺はきっとこのままなんだろうな…

 

 

数日間モヤモヤしていた。

タイミング良くヒロキから飯に誘われて気分転換。

だけど、仕事の話をしていても、ふと彼女の事が気になる。

外に出ると会いたい気持ちが抑えられなくなってしまった。

ヒロキと別れて彼女に電話をする。

 

「もしもし、俺。」

 

「うん、こんばんは。」

 

声を聴いてますます会いたくなる。

 

「何してた?」

 

返事に詰まってる?

 

「ん?」

 

「あぁ、明日の準備。」

 

何だか…様子が違う?

よし、思い切って言うぞ。

 

「そう。…今さ、お前んちの近くで飯食ってて。この後行ってもいい?」

 

「え!?急に!?」

 

ちょっと府に落ちない返事。

 

「は?駄目な理由でもあるのかよ。」

 

「ち、散らかってるし…」

 

何か、隠してる?

俺に会いたくないとか?

 

「あと10分くらいかかるから片付けられるだろ?じゃ、後で。」

 

意地でも会う。会いたい。

 

 

 

とは言うものの、いざとなると緊張する。

部屋に入るのは半年ぶりだもんな。

 

「お邪魔しまーす。」

 

「どうぞ。」

 

この前来た時よりもすっきり片付いてる。

 

「綺麗に片付いてんじゃん。」

 

「片付けたんだよ。」

 

そんなに片付けなくてもいいのに。

それに、こんな時間にわざわざオシャレしなくても。

 

「…何?」

 

じっと見ていたのが嫌だったのかな。

 

「化粧、無理してしなくていいよ。別にスッピンでも変わらないだろ?それに、本当はそんな好服きじゃないんだろ?」

 

キョトンとした顔でこっちを見る。

俺、何かおかしい事言ったかな?

 

雑誌と雑誌の間に封筒が挟んであるのが見える。

どう見ても病院の封筒だし、隠してるようにしか見えない。

 

「お前さぁ、俺に何か隠してない?」

 

「え?な、何も隠し事なんてないよ。」

  

怪しい。本当は結果が悪かったとか、ないよね?

 

「…そこに隠してるつもりの封筒、見せて?ほら、隠し事、ないんだろ?」

 

「だ、駄目だよ。体重とかも載ってるし。別に何もないから。」

 

そんな事はどうでもいいんだよ。

 

「見せろ。早く。」

 

ちょっとイラっとして強い口調で言ってしまった。

 

仕方なくって感じで俺に封筒を渡す。

 

ソファーに座り封筒の中身を全て確認する。

見落としがないように、全てのページに目を通していると再検査の文字が目に入った。

 

「…これ、どういう事?」

 

どう聞いて良いのか分からずに動揺する。

 

沈黙に耐えられず、思い切って聞いてみる。

 

「ポリープがあるから再検査って、つまりは…」

 

怖くて、これ以上言葉が出ない。

 

「小さくて良性だけど、念のために検査しましょうって事。」

 

「本当に?本当にそれだけ?」

 

嘘じゃないよな?

 

「うん、そう言われてる。」

 

彼女の顔を見る限り嘘だとは思えずに安心した。

隣に座るように手招きをすると、彼女は少しだけ距離を開けて座る。

 

彼女が病気かもしれないと思った途端、正直俺は泣きそうだった。

俺に何が出来るんだろう。

俺は今まで何をしてきたんだろう。

そして、今までの自分が嫌で、本当の俺を知ってほしいと思った。

嫌われるかもしれない。

だけど…

 

「…俺、ホントはさ、めっちゃ束縛魔なんだよね。できるだけお前にバレないように距離開けてたんだけど…もう無理だわ。」

 

俺が発した言葉はきっと予想外だったんだろう。 彼女は驚いている。

 

「…無理って事は、今日で終わりって事?」

 

「は?何言ってんの?隠すのが無理って事。」

 

こんなに好きなのに、何で今まで本当の自分でいられなかったんだろう。

 

 「…お前の事で知らない事があるなんて辛い。耐えられない。小さい事でも全て知ってたい。それに…俺だけを見てほしい。見てくれないのなら、もうこの家から出さない。俺も一緒にこの家から出ない。お前とずっと一緒にいる。」

 

 素の俺をどう思うだろう…。

 

「…ショウタはそうしたいの?」

 

優しい口調で答えてくれる。

もっと正直に言ってもいいのかな。

 

「うん。離れたくない。今までも毎日会いたかった。電話だって寂しくて切りたくなかった。でもそれじゃ駄目だから無理やり自分から切ってた。それから、俺のために頑張ってるのを分かってたから普段通りのお前が1番俺の好みだって言えなかった。」

 

「普段通りって?」

 

やばいっ…

凄い顔で俺を見ている。

 

「ショウタ?」

 

…正直に話すしかない。

 

「…俺、休みの日に何度かお前のストーカーしてた。俺と会わない時の姿が知りたくて。キモイよね、俺。でも、お前の事が好きすぎて。こんな俺を知って嫌われるのが怖くて言えなくて…ごめん。」

 

彼女の顔が見れない。きっと引いてる。

 

「嫌いになんてならないよ。…ビックリしたけど、本当のショウタが知れて良かった。」

  

そっと彼女を見ると、優しく微笑んでいた。

そんな姿が可愛くて愛しくて思わず抱き締める。

 

「なぁ、再検査、俺、一緒に行ってもいい?」

 

「え?駄目だよ。ショウタ見つかったら大変!」

 

その場で結果は聞けないかもしれないけど…

 

「心配で、俺、どうにかなるかもしれない。」

 

胸の奥がぎゅっとつままれたように痛む。

そんな俺をじっと見ている。

 

「あ、今ウザイって思っただろ?」

 

「思ってません!」

 

抱きしめていた腕を離すと体ごと彼女へ向き直す。

 

「俺、たぶん結構重い男だね。」

 

「自分で言うんだ。」

 

何がおかしいのか彼女は笑っている。

 

俺だけがこんなに好きなのかって悔しくて強く抱きしめる。

 

腕の中で小さく笑う彼女が本当に可愛くて…

 

「…キス、したい。」

 

心の声が漏れる。

 

「俺、お前しか見ないから。だから、俺の事しか見ないで?」

 

頷くと同時に目を瞑る彼女を見て、俺はきっと一生離れられないと感じた。

 

 

end